第1回のNin-terviewで紹介した「江戸隠密・武蔵一族」。
18代当主である柴田バネッサ朱雀さんが対外的に活躍する「陽忍」ならば、その活動を影で支え、武蔵一族のインサイダーなる部分を一手に担う影の「陰忍」こそが、頭目・米田和近さんです。
この頭目、基本的にメディアや外に出ることはほとんどありませんが、実は数多くの武術を納めたり、忍者の精神や術を体系的に研究し、武蔵一族内忍者達の忍者レベルを底上げしている影の上忍であります。
昔、頭目の忍術講座を習っていたことがあり、実はNinjack編集忍の忍者観も彼の思想にかなり影響されています。
Ninjackが知る中では、陽忍ばかりの忍ばない現代忍者界の中で今一番「隠忍」をやってる人なんじゃないかと思っています。
そんな米田和近さんのNin-terviewをお楽しみください。
代表が決めた方針を具現化するのが頭目の役割
頭目、本日はお時間をいただきありがとうございます!改めて武蔵一族とはどんな団体か、教えていただけますか?
米田和近: 現在の武蔵一族は、江戸幕府の奉行で外交や隠密の活動をおこなった武蔵国出身の柴田家の末裔、柴田朱雀が日本文化の普及と伝統の伝承を行うために設立した団体です。私は頭目と名乗っておりますが、頭目は武蔵一族の長ではありません。柴田朱雀が長であり、彼女が方針などを決め、実現するのが頭目の役割です。
忍者一族の代表から任を受ける忍び…立ち位置がかっこよすぎます!武蔵一族の組織形態はどうなっているのでしょうか?
米田和近: 大きく分けると、運営部・伝承部・研究部があります。運営部は武蔵一族の運営やイベント企画、体験などを仕切り、伝承部が伝統文化の継承、保存、教育などを担います。研究部が新たな技術や伝承、伝統の研究などを行っています。運営部がドゥタンク、伝承部や研究部がシンクタンクですね。
頭目はその組織形態の中で具体的にどのようなことをされているのでしょうか。
米田和近: 柴田朱雀が外部に向けに拡大や普及をおこない、私は内部の組織作りや思想、技術の整理をおこなっています。その他、時代アカデミーという伝統文化を学ぶ場で、伝承部の教育機関の運営もしております。主に忍者、武者をテーマにしていますが、日本文化全般に対して取り組むような内容です。学んだ事を発表する文化祭的な活動もしており、国際交流、 ボランティア活動、内部発表会等により日頃の成果の確認をしています。
習志野さんなど武蔵一族でもメディアに出たりする忍者がいますが、伝承部や研究部には、その忍者さん達とはまた別の忍者がいるということでしょうか?
米田和近: 運営部よりも伝承部や研究部のシンクタンクとして活躍する忍者の方が多いですね。
すごい!一体何人いるんだろう…武蔵一族の「影に徹した感じ」が計り知れないですね!
忍者に必要な要素は武術のシステムから学ぶ
頭目は昔から忍者になることを目指して生きてこられたのですか?
米田和近: 漫画やテレビの影響を受け、忍者的な動きができるようになるためにも「強くなりたい」と思い、18歳の頃に武術を始めています。忍者に対する憧れもありましたが、当時忍術を教える場所がなかったので武術を始めたのです。現在も武術は修練していますが、忍者にとって武術は必須なものではないとは思っています。
なぜ武術を続けるのかというと、忍者にとって必要な胆力、思考、状況把握などを習得するシステムがあるからです。流派とは効率よく習得するシステム体系です。そのシステムの中で、忍術に必要なものも段階的に学べるため、続けています。
武術のシステムが忍者に必要な要素を鍛えるのに繋がるのですね…!どのような修行をされてきたのでしょうか。
米田和近: たまに登山などもしますが、一般的な道場稽古が中心で特殊な事はあまり行っていません。日常の中での修練を重視しており、季節、天候、地形など様々な状況で想定した事が出来るかを検証しています。
師匠の先生方から教わったことはどのようなことでしたか?
米田和近: 武術師範からは基本的に武術の技法を学び、日常での会話や行動で物の考え方などを教わりました。攻防技法を日常の生活の中でどのように活用して行くかなど、行動を共にする事で自然と身について行きます。食事会や飲み会などは聞き取り稽古といって世間話しの中から様々なものを学ぶ場として重視されています。実際の攻防技法は対話の中でも使われており、法則がわかると言葉での攻撃や防御を状況により使い分けて使うようになります。「孫子」や「五輪の書」をビジネスに活かすといった本が多数ありますが、裏を返せばビジネス本が忍術書、兵法書にもなりうる事になります。学んだ事がすべての状況に応用できるを教わりました。
武蔵一族の先代(柴田バネッサ朱雀さんのお父様)も忍術や武術を習得していましたが、指導を受けたのは武器の作りかた、金山などの探し方、爆薬の使い方、トラブルの対処の仕方などが多かったです。
金山の探し方はとっても聞いて見たいです…!どんなきっかけで武蔵一族に属することになったのでしょうか。
米田和近: 武蔵一族の先代が武器製作と販売を行っていたため、以前から取引や稽古の交流会では先代や柴田朱雀とはお会いしていたのですが、柴田朱雀が忍者普及の活動を始めるにあたって声がかかり、協力することとなりました。理由は忍者の普及活動で何かを学べると思ったからです。実際、今も多くの事を学べています。
武蔵一族の忍びが目指すのは「空」の境地
武蔵一族の忍者達に教えているカリキュラムとはどのようなものなのでしょうか。
米田和近: 「術より法を知り根源に至れば無限へと繋がる」が武蔵一族の修練カリキュラムです。五遁の術や五車の術といった術は陰陽五行(土、金、水、火、木)をもとに編成しており、相生・相克などを学ぶ事によって法則がわかってきます。その法則を五つに分類して五輪(地、水、火、風、空)にあてはめています。術を使う者にとっては秩序が大切。そこで、五常(仁、義、礼、智、信)も同時に学びます。五行、五常、五輪をそれぞれ地、人、天として分類して三階層にしております。
武蔵ー族は江戸幕府に所属していたため、「忍士(しのびざむらい)」として忍であり侍でもあるのが特徴です。よって、その思想には武士道などの影響もあります。
五行や五輪などが根底になっているのですね!その理論を具体的に使って、どのような忍術ができるのでしょうか。
米田和近: 例えば、五行を使った五情(怒、哀、喜、楽、怨)の術です。有名な忍術書などでは五車の術と言われるものになります。もし自分が「楽」を使う場合、二種の効果があります。
それは怒りをおさめる方法と、不満に思わせる方法です。相手が怒っていれば楽しい話題で和らげる。逆にこちらが楽しい事をしていると、楽しいことがない相手は不満(怨)に思うこともありますよね。このような形で感情操作をしていきます。
それは自分の感情によって、相手の感情を消したり、新たな感情を発生させたりすることができるということですね。つまり「楽」と「怒」「怨」の間に相関関係がある。これが相生・相克ってやつですね!わかりやすいです!頭目の得意な忍具や忍術は何でしょうか?
米田和近: 好きな忍具はクナイです。先代が武器職人だったのですが、現代表も武器を作ります。代表よりクナイ十手を授かっています。十手の鉤は守りの象徴です。常に攻めず、守る事を忘れるな、という意味が込められています。ちなみに得意な術は秘密です。
そのクナイ十手…めっちゃかっこいいですね!道具にも、攻守の武器にも使えそう!武蔵一族の忍術やそれに関する思想について教えてください。
米田和近: 武蔵一族の忍術を一言で表すと「状況を掌握し操る術」です。例えば、潜入して情報を得る場合、察知されないように活動しますね。その場に溶け込むためには、状況を理解しなければなりません。仮に察知された場合は離脱する事になりますが、相手の心理などがわかれば不意をつく事も可能になります。
全ての本質を感じ知る事を「観」、思うがままに操作する事を「自在」といい、武蔵一族では「観自在之術」を忍術の極意としています。もう少し簡単な言葉にすると「空気を読んで、対応しろ」です。
全ての状況はバランスによって成り立ってます。天秤がゆらゆら動いているのをみる事が「観」、どちらに重りを乗せるかが「自在」になります。忍者が昔行っていた盗み、謀略、暗殺などの類は、このバランスを崩していく事なのです。逆に崩れている状態を釣り合うようにバランスを取る事が調和であり、平和となります。よって、重りの乗せ方で結果が変わってきます。武蔵一族の忍術は「バランスの制御」といってよいでしょう。
前段が長くなりましたが、「観自在之術」=「共鳴」となります。観自在之術は技法で、共鳴は思想です。
共鳴は相対的境地でありますが、これを絶対的境地に持って行くと「空」となります。「共鳴」と「空」の二つの境地のことを指す「水鏡」という語を用いて、武蔵一族では「共鳴水鏡」という言葉を思想の基本としております。これを説明するのは膨大な時間を要するため、今回はこの程度に留めたいと思います。
非常に難しいですね…要するに、「相手の空気を読んで自分の起こしたい方向に物事を動かす」ことを目的としたときに、相手の空気を読み、思うように動かそうとする思想が「共鳴」。そしてそれを自分の中に昇華していくと「空」という境地に至るということですね。
なんか、スターウォーズでいうところの「フォース」みたいな感じがしてきました!ライトサイドとダークサイドがあって、そのバランスをとることが「共鳴」だったり、フォースを極めることが「空」の境地というか…
米田和近: ふふふ…当たらずとも遠からずでしょうか。いいところを突いていますね。武蔵一族では、各個人が「空」の体現をめざし、日常生活で「共鳴」を使える事を目指して日々様々な分野で修行をしています。わび・さびの延長が「空」で、本音と建て前、調和の延長が「共鳴」です。どちらも日本文化の特徴だと思います。これらを忍者を通して知ってもらう事が一族の目指すところです。
米田和近にとっての忍者
頭目の忍者としての今後の展望などがあれば教えていただけますでしょうか。
米田和近: 現代の忍者が忍んだ活動に対して「お陰さまで」と言われるのは、一つの目安だと考えています。誰かのため裏で忍者たる自分たちが動いていること。自分の活動が結果に影響したことが気づかれる事は忍者としてはまだまだ二流ですが、「忍者が陰で支えてくれているんだ」と認識してもらえるような行動を起こすことが肝心です。まずは忍者界に「お陰さま」精神を浸透させる事ですね。
お陰様の「陰」は調べてみたところ「神」や「ご先祖様の霊」のことを指しているようですが、これを「影で暗躍する忍び」という意味合いに置き換えることによって最高に忍者がカッコよく感じます!まさに忍者の本質という感じで!そんな頭目にとって、忍者とはなんでしょうか。
米田和近: 和の象徴。そして、憧れの存在です。
その「和」の中にいろいろな意味が含まれていそうですね。Ninjackの読者にひとことお願いします!
米田和近: みなさんも合言葉は「お陰さま」の精神で忍んでいってください!
おかげさまで大変勉強になりました!ありがとうございました!
編集後記
決して言葉は多くを語らず、しかし大事なことをそっと教えてくれる武蔵一族の頭目・米田和近さん。
ご自身の中で、おそらく忍者や忍術というものが体系的に確立していらっしゃるのだろうと感じました。これが影の忍び…!非常に真面目で、忍者に対するガチ感がヒシヒシと伝わってきました。
観光資源やエンタメコンテンツとしてしか認識されない忍者ですが、忍者とは本来このように誰にも知られずに、密かに事を成すために動いているのが忍びの生き方というものだと思っています。
どうしても世の中に出てくるのは陽忍として活動する忍者の方々が多くなってしまうのですが、ぜひこのお陰様の精神というのは持っておきたいところだな、と強く感じました。
しかし知られなければ、その大事な精神を伝えることはできないことは百も承知。そういう意味もあってか、この頭目、忍者だけあって変装を得意としており、実は陽忍としての別の人格があるという噂も聞きました。藤林長門守と百地丹波が同一人物だったように、実は別の人格で別の顔をして生きているのかもしれません…
気づかないかもしれませんが、もしその忍者にあったらそちらにもNin-terviewしたいと思います!
世界各地で活躍する諸将の皆様へ、Ninjack.jpを通じて各地の忍者情報を密告する編集忍者。忍者に関することであれば何でも取材に馳せ参じ、すべての忍者をJackすべく忍んでいる。