みんなの忍者イメージはどこから来たの?忍者文学研究最前線!

みなさんが大好きな忍者のイメージって、どんな忍者でしょうか?

そんなん「黒装束に手裏剣をめっちゃ投げまくって、奇想天外の忍術を使ってドロンと消えたり火を吹いたりするのが忍者でしょ!」と言っているそこのあなた。

正解!それは忍者です!

でも忍者の本来の役割と世の中の忍者のイメージがだいぶ掛け離れているのは、もうみなさんも薄々感づいていると思います。 いったいぜんたい、忍者って何なのでしょう? という本来の「忍びの者」と創作世界の「忍者」について文学の切り口から徹底的に解剖してくださったのが、三重大学准教授の吉丸雄哉先生。

果たして古から現代までずっと人気を誇っている「忍者」というのは、どのような変遷で今も私達にロマンを与えてくれているのでしょうか。 企画展「The NINJA -忍者ってナンジャ!?-」がお届けする忍者・忍術学講座「忍者文学研究」の回のレポートをお届けいたします!

「忍びの者」と「忍者」は違う!

忍者というのは不思議なもので、誰一人見たこともないのに 「忍者って何?」 って聞くとだいたいの人が「黒装束を着て、手裏剣投げて・・・」と答えられるはずです。 誰も見てないのにそのイメージは固まっている忍者は、まるで天狗のような存在だと吉丸先生は語ります。 海外の人にもNINJA SUIT や NINJA STAR と言えば、黒装束や手裏剣だと通じるほどです。

では実際の歴史上にいた忍者がそうだったのかというともちろん違うわけで、史実的には14世紀頃に「太平記」に忍びの者としてその存在が出てきています。 聖徳太子が使ったとか中国からの由来説など諸説はありますが、太平記から忍びの者たちが書物に記されたと言ってよいでしょう。

彼ら忍びの者たちは平時でも戦時でも、諜報活動や破壊活動、窃盗などの仕事をする機能として、その役割を果たしました。 周りが的に囲まれた一国の運営や合戦で勝つためには諜報活動などを行う機能はどうしても必要となったわけですから、伊賀や甲賀の忍びなどの専門的なプロだけではなく、他の地域でも軍組織の中でそのパートを担った者もたくさんいます。

しかし、これらスパイ活動をしている人たちは基本的に実在した証拠も活動の軌跡も残せません。 世の人々は彼ら忍びの者について「一体どんな人たちで何をしていたのか」を想像で埋めていくしかありませんでした。 そうして創作者のそんな想像が生み出した文学において出てきたのが「忍者」なのです。

吉丸先生は史実上で活躍した忍者を「忍びの者」、主に文芸の上で活躍した忍者を「忍者」と定義されていました。

というのも古文書等に残る忍者の読み方は「シノビノモノ」と呼ぶものであり、「ニンジャ」と呼ぶようになったのは昭和30年になってからなのです。

忍びの者と忍者の一番の違いは、超人能力を駆使したりや魔法に近い「忍術」を使うかどうかで整理した吉丸先生。 非常にわかりやすい整理ですね。 そんな忍者たちが、元のスパイ機能を担う者達からどのように変遷して行き、今のイメージに落ち着いたのかを追って行ってくださいます。

近世忍者像の典型①:忍び込んでモノを盗む

忍者の典型的なイメージとして、偉い人たちの城に忍び込んで何か盗み出すっていうのがありますよね。 石川五右衛門や加藤段蔵など、有名な忍者達が続々と例が挙げられると思います。

吉丸先生も本格的に研究に入るまでは「本来の忍者はもっと多種多様なことをやっているのに、このパターンばかり描かれるのは、江戸時代の人達は忍者のことをよく知らなかったのかな」と思っていたようですが、どんなに危険な場所に忍び込んでも必ず生きて戻って来る描写は、戦士としての忍者ではない、まさに「忍びの者の本質」を突いているのだと改めて感心したそうです。

伽婢子に出てくる加藤段蔵が典型?

飛び加藤と称された加藤段蔵が出てくる昔の物語「伽婢子(おとぎぼうこ)」。 加藤段蔵が上杉謙信から課された採用試験で、敵対している直江山城守の家からある長刀を奪ってくるよう命じられるお話です。

段蔵は夜番らの警戒の目をかいくぐって見事に長刀を奪い、さらに直江の妻に仕えていた童女までを生け捕りにして謙信の前に献上しました。 絵にも描いてありますが、門番の犬も毒殺してるんですよね。 原作は中国の武侠小説なのですが、伽婢子の作者・浅井了意が、翻案する際に元ネタの登場人物を加藤段蔵の話にしたようです。

吉丸先生曰く、実際の加藤段蔵は史実の人物ではあるけどももともとは忍びの者ではなかったようでした。 これが忍者がどこかに忍び込んで何かを盗んでくる典型的なパターンのうち、早く世に出てきたものでした。 (寛永頃の「聚楽物語」が最初だそうです。)

忍者が黒装束になったのはなぜ?

伽婢子の挿絵をご覧になってもわかるかと思いますが、この頃はまだ忍者は黒装束ではありませんでした。 原理的に考えれば「いかにも忍者だ!」ってわかる格好をして忍び込もうとすると忍者だとバレてしまいますから、黒装束のシンボルを実際に着用していたわけではありません。

では、いったいいつから、なぜ黒装束というイメージがついてしまったのでしょうか。

こちらは歌舞伎の「毛抜」という演目なのですが、途中で天井裏に潜んだ忍者が槍で突かれて落ちてきて、捕らえられるシーンが出てきます。

こちらは江戸時代の人形浄瑠璃のパンフレット。左上の方に黒装束の曲者らしき者が見えてますね。

小説では「こいつは忍びの者である」って説明を書いておけば、その登場人物が忍びの者であることが一発でわかります。ですが演劇や人形劇などでは、本来の忍びの本質に忠実に再現して他の侍や町人などと同じ格好をしていては誰が忍びなのかがわかりづらく、ストーリーを純粋に楽しむには少々の混乱を来たしてしまいますよね。

そこで曲者であることをわかりやすくするために、忍者が劇の中において黒装束で描かれることが多くなりました。1760年くらいから黒装束で描かれる比率が増していき、徐々に「忍者 = 黒装束」のイメージが演劇を通して形成されていったのだと吉丸先生は語ります。

ちなみに歌舞伎「毛抜」は、「髪の毛が逆立つ」という奇病のためになかなか結婚できなかったお姫様がいて、そのからくりは雇われ忍者が「天井裏に潜んで大きい磁石を使って逆立たせていた」というオチのストーリー。なんか笑っちゃいますね…。

吉丸先生は触れておりませんでしたが、「忍者が天井裏に潜んでいて槍で突かれて落ちてくる」っていう描写もこれが元ネタなのかな〜と思ってしまいました。

手裏剣のイメージはどこから?

忍者が何枚もの手裏剣を手のひらに乗せて、シュシュっと放つイメージ。 忍者が手裏剣をよく使ったのも、劇で使われたのが走りだったようです。

この図は劇場での小道具として使われたものを紹介する絵図ですが、柄杓に刺さっていますね。 これは手裏剣が投げられたのを柄杓で受けるというシーンに使われたようですが、実際に劇場で手裏剣を打つのは危険です。 そのため、柄杓にあらかじめ刺しておいて、急に取り出して手裏剣が投げられたように見せていたのでした。

阿修羅が伊賀忍者博物館のショーでよくクナイとかで見せてくれるあの技、こんな昔からあったんですね!

1803年の演劇の百科事典に載るほど、お約束になっていました。 武士の武術の嗜み「武芸十八般」の中にも手裏剣術が記されているほどで、実際は手裏剣は忍者だけの武器ではなく、武士が嗜んだ武術。

吉丸先生の推測としては、遠くから不意打ち的に使う手裏剣術は正々堂々がモットーの武士道の精神に反するという風潮が出てきて、曲者である忍者の武器として定着したのではないかと語っています。 また本来は手裏剣は棒手裏剣が主流なのですが、漫画で棒手裏剣だと絵的に映えないことから、十字手裏剣が描かれることが多くなったのではないかと考えられているそうです。

近世忍者像の典型②:忍術(妖術)を使ってお家や天下転覆を図る

蝦蟇に乗ってドロンと消えたり、大きなネズミに変身したりと奇想天外な術を使って、国家の転覆を図ろうとする忍者。 現代のNARUTOや山田風太郎の忍法帖シリーズでもこの妖術的なモノを使う流れを汲んでいますよね。 天竺徳兵衛や仁木弾正などが歌舞伎・浄瑠璃でガンガン妖術を使って悪者や謀反人となり、魅力的なヒールとして描かれたのです。

江戸時代では神仏以外が妖しの術を使うのは「悪」と捉えられていたようで、この頃の忍者の描かれ方としては悪役として描かれることが多かったとのこと。 今でも海外の映画などでは、怪しげな闇の存在として描かれることが多いですよね。

近世忍者像の典型③:「忍び」らしい忍者

江戸時代では日本内でも悪の存在としてイメージづいてしまった忍者。 児雷也などの義賊と呼ばれる忍者も出てはきますが、実際に読んでみるとやはり怪しく描かれているといいます。 しかしあるとき「猿飛佐助」の登場により、その忍者像が正義のヒーローへと一変します。

実は猿飛佐助は江戸時代にも出てきていたのですが、すっごい脇役にしかすぎませんでした。

それが玉田玉秀斎の講談に基づいて出版された立川文庫「猿飛佐助」(1913)によって、一気に人気を博します。 猿飛佐助は忍術名人の戸沢白雲斎から忍術を習い、真田幸村の家臣となって世のため、主君のために活躍する忍者となったのです。

佐助は本質である忍びではなく、忍術を身につけた武士という位置付けでした。 これにより忍者が正義のヒーローとして認識されるようになり、現代にも受け継がれています。 NARUTOも忍術を駆使して里を守るために戦うヒーローとして描かれていますよね。 こうやって忍者のイメージは時を経て、変わっていったのでした。

みんなが抱いている忍者・忍術のイメージの元ネタがたくさんのところに隠れていましたね。特徴をまとめると上記のとおり。このようにしてみなさんが思い描く忍者が長い年月をかけて作られていったということになります。

  • 忍術を使って大事なものを盗む話が多い
  • 黒装束と手裏剣のイメージは演劇から
  • 魔法的な忍術を使う悪人の場合もある
  • 猿飛佐助より正義の忍者も登場

吉丸先生にプチNin-terview!

忍者像は時代と共にどんどん新しい形に変わっていくので、「これからもどんな忍者像が出てくるのかが今後も楽しみです」と吉丸先生。そんな吉丸先生にプチNin-terviewのお時間をいただきました!

講演とても面白かったです!吉丸先生は資料としてどれほどの忍者コンテンツを参考にされたのでしょうか?

吉丸先生: 江戸時代の作品は少ないので集めるのは難しいですが読むことはできます。明治以降になると講談本もレアでなかなか見られなかったり、数も膨大で大変ですが、忍者に関連するものはなるべく見るようにしていますね。ただ迷うのが「セクシー系の作品」です。あれは数も多いですし、私も古いのが専門ですので一旦見るのは棚上げにしています。落ち着いたらいつかやろうかと思っていますが、誰かやってくれると助かりますね(笑)

セクシー忍者の文芸史…それはすっごく楽しみです(笑) いろいろな忍者作品を集めた中でも吉丸先生のオススメ作品はありますか?

吉丸先生:  3つあげるとすれば1つはリアル系の忍者が描かれる和田竜先生の「忍びの国」、2つ目は奇想天外ストーリー系小説で荒山徹先生の「魔風海峡」、3つ目はゲームなんですが「忍道」シリーズや「天誅」シリーズですね。私は研究結果として「忍者は本当は手裏剣使ってなかった」とか「黒装束は着ていなかった」とか夢を壊すようなことを発言してしまっておりますが、忍者作品としては魔法的忍術がバンバン出てくる忍者モノの作品が一番好きです。魔風海峡はおススメですし、山田風太郎の忍法帖シリーズも最高ですね。

僕も山田風太郎シリーズ大好きです!忍法帖シリーズの中で特に好きなタイトルは何ですか?

吉丸先生:  やはり「魔界転生」ですね。最初は毎日新聞で連載されていた「柳生十兵衛、死す」をたまたま読んで興味を持ち、他に山田風太郎の著作で柳生十兵衛の別の作品がないかと探して読んだのがきっかけでした。

というか先生もゲームやられるんですね!

吉丸先生:  やりますね。天誅シリーズや忍道シリーズは忍者ゲームの金字塔ですので、まだ遊んでいない方は是非遊んでみてほしいです。ステルスアクション系ゲームはメタルギアソリッドが有名だと思いますが、これらはまた違った忍者要素たっぷりで楽しめると思います。ゲームシステムでは特許が取れないので、「アサシンクリード」など海外の資本力にモノを言わせた似たようなゲームに押されてしまうのは仕方ないのですが、忍者好きでしたらこちらがおススメです。

「忍びの国」は今後映画化されますが実写化が楽しみなシーンなどはございますか?

吉丸先生:  和田先生はリアルな忍者像に忠実に書かれる方なんですが「忍者が出るなら手裏剣を投げないとダメだろう。どうせ投げるならたくさん投げてもらおう」と描いた手裏剣をバーっと使うシーンがあるのです。そこがどんな映像になるかが楽しみですね。やはり映像で見ると迫力満点でしょうね!

先生が特に「これはリアルの忍者を忠実に描いてるな」と思う作品はありますか?

吉丸先生:  逆にNinjackさんは何だと思いますか?

え…(質問されるとは思わなかった…)村山知義の「忍びの者」とかでしょうか…

吉丸先生:  私はNHK「タイムスクープハンター」の忍者の回ですね!作品というのは何かしらストーリーが入った時点でフィクションが入るわけですよ。忍者について描いていったら、整合性をとるためにどうしてもある程度フィクションは入れざるをえないです。

「タイムスクープハンター」はドキュメンタリー形式で、小説や漫画や映画などとは方向が違うので、忍び装束を黒にする必要もありません。あの回は誰が監修したんだろうと思うほど、忠実に再現されていたように思いました。知らない人は見てみたらよいと思います。あれはすごいです。

あれは確かに面白かったですね!逆に「これはないだろ〜」っていう忍者作品はありましたか?

吉丸先生:  ないですね!今までとは違った斜め上の作品に出会うと「そうきたか!」と嬉しくなってしまいます。人間の想像力はすごいな、と感心してしまいますね。

なるほど! ちなみに今日は割愛されたと思いますがくノ一の頭領とされる武田家のくノ一「望月千代女」がいなかったというのは本当ですか?ショックでして・・・

吉丸先生:  私も本当にいたものだと思い資料をかなり当たったのですが、くノ一としては実在はしていないという結論となりショックでした。。千代女が実在していたことはOKとしたとしても、あくまで巫女の頭領であり、くノ一であるとも書いてないですし、情報収集をしたとも書かれておらず全部憶測になっているんですね。フィクションをフィクションとして楽しむのは良いのですが、歴史で嘘をつくのはルール違反だと思うんです。夢を壊すとも言われますが、それは仕方ないのではないでしょうか。

そうですよね。フィクションとして楽しみたいと思います!最後に、今注目している新しい忍者像などがあれば教えてください!

吉丸先生:  「ニンジャスレイヤー」などの海外発祥のコンテンツがどのような化学反応を起こすのかに興味を持っています。海外の忍者から日本に新しい忍者の形が逆輸入されて、それが日本の忍者とごっちゃになって新しいモノが今後できてくると思っています。海外ではショー・コスギの忍者像が強い力を持っていたと思いますが、「ニンジャタートルズ」の映画や「LEGO NINJA GO」なども大変よくできていますよね。今後が楽しみです。

忍者コンテンツ界、盛り上がってますよね〜。本日はありがとうございました!

過去の忍者像を熟知し、これから変わっていく忍者も見届けようと、忍者を文化として捉えて研究していく吉丸先生の知識量とその考察には圧倒されてばかりでした!

「本当の忍者とは何か?」という問いは永遠のテーマだと思いますが、忍者というのは時代によって変容する素晴らしい逸材であり、この多様性と変容性には将来への可能性しか感じられません!

研究結果や参考にした資料などは、吉丸先生が編集された「忍者文学研究読本」にたくさん載っています。 「海外から見たNinja」や「爾雷也とNARUTOの関係」、「和田竜×川上仁一×山田雄司のトークショー書き起こし」など興味深い内容を知ることができますので、もっと忍者の幅広さ&深さを味わいたい方はぜひ読んでみてください!

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