忍者の精神で多様性を認めあえる世界を 〜よしもと所属忍者タレント「一ノ瀬文香」〜|Nin-terview #029

伊賀流手裏剣打選手権大会の団体戦で一ノ瀬文香さん。

初の芸能人同士で同性婚(現在、日本では同性同士で婚姻ができないので挙式のみ)をしたことで一時世間でも話題になりました。

なんと数年前から、伊賀麻績服部流忍術の正統継承者である妃羽理師匠に師事し、芸能界で忍者タレントとして活動されています。

日々の活動や忍者への思い、今年の手裏剣大会への抱負など、さまざま伺ってみました!

生まれは薩摩の武士の家系

す…すごい衣装で目のやり場に困りますね…。よ、よろしくお願いいたします…!
一ノ瀬さんは小さな頃から忍者に触れていらっしゃったのですか?

一ノ瀬: 昔ファミコンの忍者ハットリくんのゲームをやってました!でも小さい頃は忍者よりも侍とか武士の方が興味があったんです。うちの家系は武家のようでして、祖先は薩摩にいたようですね。武家も手裏剣打は武術として嗜んでいたと言われますが、私の父も小さい頃に釘で手裏剣を作って遊んでいたと聞いたことがあります。父からは手裏剣は習っていないですけどね(笑)

ブログで拝見しましたが、家紋が島津のものでしたよね。好きな忍者作品などはあるのでしょうか。

一ノ瀬: NARUTOが好きで全巻持っています!特に我愛羅が好きですね。内面的な性質がこれまでの私と同じで共感ができるキャラクターです。しかもあれだけ可愛いのに闇があって強くて、すごく魅力的ですね。私自身、身長が低くて骨格的にはいわゆる女性の身体なのですが、そんなことで諦めたりせずに、鍛えて強い忍者になっていきたいので、彼を見習って修行も頑張っています。筋肉もだいぶついてきました!

我愛羅いいですね〜。鍛えるのはいつ頃からやっているのでしょうか?

一ノ瀬: 小さい頃に山育ちだった父に山に連れて行かれたりしていて、スポーツもやっていたので、基礎体力はもともと付いていたと思います。その後、芸能のお仕事をするようになってから、アクションの仕事でプロレスや殺陣をやったときに、アクションがすごく面白くなったんです。演技の仕事をしていくためにはアクションをもっと学びたいと思い、本格的に鍛えるようになりました。その前から自分のボティラインを整えるためにポールダンスをずっとやっていたのですが、音楽的センスがなくてダンスはあまり得意ではないんです。なので演技の幅を増やすためにアクションを極めようと鍛え始めた感じですね。

そう考え出した頃、今の妻に教えてもらったんです。「妃羽理さんっていう忍者の末裔で、アクションの仕事をプロとしてやっている人がいるよ」って。

妃羽理師匠との出会い

そこから妃羽理さんに出会うわけですね!ちなみになぜ奥さんは妃羽理さんをご存知だったのでしょうか。

一ノ瀬: 茜ちゃん(一ノ瀬さんの結婚相手)はショーダンサーなのですが、妃羽理さんも有名なお店でショーダンサーとして働いていました。茜ちゃんが働いていたお店で昔妃羽理師匠もダンサーとして働いていたことがあり、時期はかぶってはいないのですが茜ちゃんは妃羽理師匠の後輩だったというわけなんです。知人のダンサーの紹介で会っことがあり、知り合いだったみたいなんですよね。

なるほど…。茜さんからご紹介された形になるのでしょうか?

一ノ瀬: 妻から「あなたなら妃羽理さんと気が合いそうだから会って来なよ!」って突然言われたんですよ。妃羽理師匠は「ツバサ基地」というアクロバットスタジオで週1回クラスを持っているのですが、最初は「言われたからどんなもんか行ってみよう」という感じで会いに行ったんですよね。その時に感銘を受けて、その日に「マンツーマンで教えてください!」とお願いしました。結局その時は断られたんですよね。それからしばらく経って、妻からまた「一回断られただけで身を引くのはよくないよ」と言われました。なので週末にでももう一回行ってみようと思ったんです。

いい奥さんですね…!

一ノ瀬: ただちょうど次の日、歌舞伎町で人を待っていたら誰かから突然声をかけられ、顔を上げたらなんと妃羽理師匠だったんです。ツバサ基地で一回しか会ってないのに覚えていてくださったのですよね。その場でもう一度お願いしてみたら「教えるのは全然いいけど教える場所がない」ってことで、そこから私の方で場所は確保して、週1回師匠にマンツーマンで教えていただくことになりました。

おぉ、なんか運命ですね!稽古はどれくらいされていらっしゃるのですか?

一ノ瀬: 朝8時すぎくらいから毎週1時間、みっちりやらせていただいています。普段はあまり早起きなタイプではないのですが、稽古の前に自主練もしたいので、早朝に起きて刀をもっていそいそと出かけていきます。その日だけ楽しそうに出かけて行くので、妻からも「本当に忍者好きなんだね」って言われますね(笑)

妃羽理師匠から受け継ぐ伊賀麻績服部流忍術

普段教わるときにはどのような稽古を行うのでしょうか?

一ノ瀬: 毎回、師匠が来たらまず最初に九字護身法を2回やります。1回目は伊賀流、2回目は一般のものですね。その後、結界を貼るために部屋の4隅を刀印で清めるんです。その日その日で違ったメニューがあって、忍者関連でいうとクナイや手裏剣もやりますが、最近は「二丁鎌」を教えていただいています。最後に結界を解くための真言「オンキリキリ・・・ソワカ」と3回、「オン バサラド シャコク」と1回唱えて終わりです。

伊賀流の九字…この独特な発声は、伊賀流忍者集団・黒党の演武で見たことがありますね!伊賀麻績服部流というのは…?

一ノ瀬: 妃羽理さんから伺うには、かの有名な服部半蔵から遡ること8代前の服部伊賀守清信という方が、伊賀を出て長野県の麻績を隠れ里にしたときに、伊賀から付いていった家臣「宮下家」に伝わる忍術の流派だそうです。妃羽理さんの本名は宮下なんですよね。

清信さんが生きていたのは鎌倉時代初期。平家の流れの服部氏が源氏に敗れ、残党狩りから逃れるために、藤原氏の流れを組む服部氏から養子をもらって嫡男にしたそうなんです。そのときその平家の流れの嫡男だった清信は伊賀にいる必要がなくなり、田んぼや畑の作りやすい地を求めた結果、麻績の地に行き着いたのだと聞いています。

ほほう…服部の血が長野にまで。大変興味深いですね!このような歴史なども聞いたりされるのですか?

一ノ瀬: はい、修行の合間や前後にお話してくださいますね。松尾芭蕉の忍者説についても聞いたことがありますが、麻績の地にも訪れたみたいなんです。姥捨山ですね。あそこは険しい山なので行く目的がないとわざわざ通ったりはしない場所だそうで、麻績の地と伊賀の忍びはその頃も何か関係があったのではないかと思われます。

ほへー!おもしろいですね!

一ノ瀬: あ、そういえば伊賀流忍者博物館に前に師匠といったことがあるのですが、忍具の説明コーナーにある映像に妃羽理さんがニューハーフになる前の映像が残ってたんですよ。石垣を命綱もつけずにひょいひょいと登って行く姿。あれはとっても貴重で大変見ものですね!

おぉw 今度見てみます!!

手裏剣大会本戦「個人戦」で好成績を残したい

第7回の手裏剣大会についてお伺いさせてください。去年から初出場だと思いますが、出ようと思ったきっかけはなんだったのでしょう?

一ノ瀬: 浅草のEKIMISEに忍具を買いに行った時に大会の存在を初めて知って、「せっかく師匠から手裏剣も習っているので出たいな」と思って、個人戦の予選にエントリーしてみたんです。軽い気持ちでのエントリーだったので、こっそり1人で行ってこっそり帰ってくるつもりでした。そうしたら東京予選に私の取材が入ることになってしまい、さすがに予選通過できないと恥ずかしいので1週間は毎日特訓しましたね。ですが急な特訓だったので手首は痛めるし、予選は敗退するし、それが記事にもなっちゃうしで去年は散々でした(笑)

僕はあの記事で一ノ瀬さんが忍者やってることを知りましたw 団体戦にはどうして出ようと…?

一ノ瀬: 個人戦が予選敗退して確かに悔しくて団体戦に出たかったのですが、私の周りに手裏剣打てる人は師匠しかいないので、一緒に出られる人がいなかったのです。やる人いないかなーと探して見たら、同じ東京よしもと所属(現在はフリー)の芸人で「なったん」が、実はひっそりと手裏剣の個人戦に出場してたんですよね。なったんは個人的に忍者が好きで、その前の年も予選に出ていたらしいです。なったんに声をかけたら団体戦に出てくれるという話になりまして。

その後、なったんが大阪よしもと所属の「みっちょん」を紹介してくれて3人のメンバーが集まりました。みっちょんは手裏剣を打ったこともなかったので、本番の1ヶ月前くらいにみっちょんに手裏剣打ちを教えるために大阪まで飛んで、3日間手裏剣の特訓をしました。その後1ヶ月は自主練をしてもらって、本番に再度集結したんです。私も1ヶ月前からはほぼ毎日練習していたと思います。家ではゴム手裏剣でやったりしていましたね。

なったん、実は個人的に予選出てたってのが最高ですね!大会当日はいかがだったでしょうか?

一ノ瀬: 3人とも表に出る仕事ですから緊張とかはあまりしなかったのですが、取材も入るし、東京から応援に来てくれた方もいたので「これは優勝しなきゃだよね」と話していました。なので優勝するのに必死で周りがあまり見えていませんでしたね(笑) 個性的な衣装を着た忍者さん達がいっぱいいておもしろいな、と気づいたのは団体戦が終わってからでしたもん。終了後に伊賀観光協会と戦うのも、勝ちはしましたが気が抜けてボロボロでした(笑)

それで見事優勝とはすごい!優勝したときはどんな気分でしたか?

一ノ瀬: 優勝できてすごく嬉しかったですね。東京から応援に来てくれた方や、師匠もずっと応援してくれていたので、ホッとしました。

今年の個人戦の東京予選は130点でしたね!本戦出場はおそらく大丈夫だと思いますが、コツとか気をつけていることがあれば教えてください!

一ノ瀬: コツですか…?まずはまっすぐの軌道で打てるようになるのが第1段階ですかね。まっすぐ打てるようになったら、自分に合ったリリースポイントを探っていけると精度が上がると思います。本戦までも感覚が鈍らないように練習を重ねないとですね。

あと去年の予選の時は2回とも6枚目を投げちゃって、点数が引かれちゃっていました。。。あといつもやっている伊賀流の九字は、空を切るのが縦から始まるんです。一般的な九字は横からのようなので、今年からはそこも気をつけて直しています。

早九字の伊賀流は少し違うのですね。個人戦の本戦に出られたとしたら、狙うところはどこでしょうか?

一ノ瀬: 本戦に出ることが目標だったのですが、どうせ出られるのであれば優勝を狙いたいです!今のままじゃダメだと思うので、優勝できる実力になるようにこのあと修行していきたいですね。純金の手裏剣を師匠と会社に持ち帰りたいです!

忍者の女優といえば一ノ瀬文香となれるように

LGBTの講演などはよくやっていらっしゃると思いますが、講演のパッケージの中に忍者に関する講義もありますよね?

一ノ瀬: LGBTに関する講演を行政や企業向けなどで行なっていますが、忍者に関する知識や技術の普及もしたいと思い、講演のパッケージには忍者に関するものも用意しています。日本人はみんな忍者のことを知らないですが、私自身、師匠から教わって忍者ってこんなに面白いんだと思うことがたくさんあるんです。ぜひ、みなさんにも知ってもらいたいので、依頼があれば忍者についてお話します。

講演のレジュメの中に気になるものがあるのですが、「忍者のはじまりは縄文人だった」というのはどういうことでしょう?

一ノ瀬: もともと日本の大陸には縄文人がいましたよね。弥生時代に渡来人が西の国から渡ってきて、縄文人はその弥生人となる者たちに北海道、沖縄、本州だと山の方に追いやられたわけです。北海道だとアイヌ民族、沖縄は琉球民族、山に追いやられた人たちは山の民「山窩(サンカ・サンガ)」と呼ばれる人たちになりました。弥生人同士が争う時、彼らは山窩を戦力として使ったと言われています。それが忍者のはじまりだったと。忍者の子孫は元が縄文人ということで、身長が低くて顔立ちがはっきりしている人が多いらしいですよ。

おーその節は初めて聞きましたね。忍者修行を初めてから仕事の内容も広がったりされたのでしょうか?

一ノ瀬: 忍者ショーとしてお仕事をいただいたり、忍者に少しでも興味がある方だといっぱい質問をしていただいたり、世界としては広がりましたね。忍者に出会えてよかったと思っています。

今後はどのような活動をされていきたいなどありますでしょうか。

一ノ瀬: もっと修行して強い忍者に自分自身なっていきたいです。今後は国内外でショーをやりたいですね。講演もいいのですが、視覚的に楽しいって思ってもらえるのが忍者に興味をもってもらう近道だと思いますので。また、映画やドラマにも忍者役で出るのが当面の目標です!その傍ら、師匠から教わった技術を一般の方にも教えていけたらと考えています。忍術をやっている女優さんはいないと思いますので、忍者の女優といえば私みたいになるといいですね。

一ノ瀬文香にとっての忍者

忍者が広まることで、世間の人々に伝えたいことなどはありますでしょうか?

一ノ瀬: 私の根本的な願いは「多様性を認めあえる社会になること」です。LGBTに関しても本格的に取り組んでいて、例えばレズビアンであることを隠して、自分を変に殺したり、我慢したりして辛い思いをしている方が多くいらっしゃいます。隠していると「なんで結婚しないの?」とか聞かれたりして、嫌な思いするんです。あくまで私の考えなのですが、どうせ嫌な思いをするのであれば、自分をさらけ出して自分らしく生きた方がいいのではないかと思っています。私もカミングアウトして講演などもしていますが、それでも全然やっていけるというのを伝えたくて今この仕事をしているんですね。

ぜひ自分を強く持って楽しく生きていける社会を作っていけたらと思うのですが、忍者はとてもメンタルが強く、強い精神を維持するためのスキルなども持ち合わせています。自分らしく生きるための強いメンタルを持つために、忍者には見習うところがたくさんあると思うんです。そういうところを忍者を通して伝えていければと考えています。メンタル強くなきゃ何日も忍んでいられないですからね(笑)

大変説得力があります!では一ノ瀬さんにとって忍者とはなんでしょうか?

一ノ瀬: すぐさま思い浮かぶのは師匠ですね。忍者は世界中で有名なのに、その実態は日本人にすら理解されていません。師匠はショーの合間に忍者に関する話もして、そんな闇の中の明らかざる者である忍者の実態を広めることを使命としています。

私は師匠から「忍者に関する知識や技術を、イメージ優先の芸能界に真実を突き付けるアイテムであり、武器にして欲しい」と言われていて、忍者をそのようなものにしたいと思っています。

Ninjackをご覧の読者の方に一言お願いします!

一ノ瀬: これからも修行を積んで、強くて美しい忍者を目指していきますので、みなさま応援よろしくお願いいたします!!

ありがとうございました!

編集後記

非常に生きづらい世の中を少しでも良くしようと精力的に活動されている一ノ瀬さん。その中でも助けになり得るのが忍者の知恵なんですね。

伊賀麻績服部流忍術の糸口も少し見えてきて、大変興味深いお話が聞けました。

今年の手裏剣大会の本戦では果たしてどんな活躍を見せてくれるのでしょうか?

本戦でのセクシーな衣装で伊賀の忍者のおじさま達を悩殺するのも大変楽しみにしております!

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