忍術は人間として学び続けなければならない勉強だ 〜武神館宗家「初見良昭」〜

初見先生は、故・高松寿嗣先生に師事した後に戸隠流忍術の第34代継承者としても知られ、忍術・武術を極めFBIやCIAにも指導をされています。

その昔「世界忍者戦ジライヤ」への出演や映画「007」の忍術指導をするなどでも人気を博し、Newsweekの「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれるなど、世界では「忍者といえば初見」と言われるほどの忍者なのです。

その門弟の数は全世界に50万人もいるとも言われています。

全世界から武神館の師範代が集まる本陣道場では、初見先生よりも体格の良い外国の方が少し触れただけで苦悶の表情を浮かべながら倒されてしまうという、凄まじい風景が飛び交っていました。

86年の人生をかけて世界中から忍者と称されてきた初見先生は、果たして忍者・忍術をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。

すべての忍者をJackするインタビュー「Nin-terview」の記念すべき第40弾をお楽しみください。

忍術が知りたければ武道をやりなさい

初見先生、お会いできて光栄です!まずは武神館の忍術についてお伺いしたいのですが…

初見良昭: 忍術かい?忍術を頭でわかろうとするのは難しいよ。

その辺りをお教えていただければと…先生がお持ちの「忍者秘訣文」に武道の中に忍術があるというような事が書かれていたと思いますが、武術と忍術の違いは何でしょうか?

初見良昭: 忍術と武術を分けて考えちゃいけないんだよね。忍術と言うのはね、武道の集大成のようなものなんだよ。武道も忍術も空気みたいなもんだから一緒なんだよな。頭だけで考えてたってできるわけじゃない。忍者に理屈はいらないんだよな。

だから今、忍者について本当に知ろうと思うなら一番やらなきゃいけないことは武道だよ。みんな忍者や忍術を頭で捉えようとしているけど、一番大事なのは潜在意識なんだ。文書に書いてあるようなことのは大したもんじゃないんだよ。君は万川集海を知っているかな?

は…はい、存じ上げております!よく読んでます。

初見良昭: あれは”川”じゃなくて”閃き”なんだよね。だから万”閃”集海って書くんだよ。忍術というのは、もうとにかくたくさんのことを閃いていかなければならない。それに万川集海だって書かれたのは江戸時代でしょう?忍術の研究や勉強というのも大切で立派だけど、武道をやって身体を使って探求していかないと忍術を間違った方向にわかった気になってしまって、文書に書かれたことを読んだだけで満足してしまう。

もちろん文献の勉強も立派だよ。ただ文書には嘘も書いてある。嘘を読める人は大したもんだけどな。やっぱり忍者は文献研究だけでは辿りつけるものではない。

言いたいのはとにかく忍者・忍術について知りたければ武道をやりなさいということ。でないと何にもならないんだよ。

初見良昭: 俺のところに来て武道をやってる人だって、みんな研究や勉強もしている賢い人ばっかりだよ。世界から学者とか来ているもん。

俺の家にも文献はある。藤原とか中臣とか物部とかの飛鳥時代の文書がね。忍術というのは中世からじゃなくてもっと前からある。大伴細人とか聞いたことあるでしょ?

馬杉に住んでたと言われる忍びですね…!

初見良昭: 高松先生はその時代の神代文字の文書を全部解読した。研究をするにしても武道をやりながらでやらないと真理には近づけけないんじゃないかね。

結局、伊賀や甲賀の忍術伝書は江戸に入ってから中国の思想、儒教とかの影響を受けているだろう?日本はその辺から間違っちゃったんだよな。葉隠なんてのもでてきたけど、日本人古来の武士道なんかではないよな。

世界から実践で使える武道を求めて

先生のご指導を見ていると本当に一瞬見せただけですぐプレイですね。あれでみなさんはわかるのでしょうか?

初見良昭: もう何年もやっている方達だからね。ここに来るのは師範代の人達ばかりだから、あれだけでもわかるんだよ。

さっきの五段の昇段試験を見ただろ?あそこまで行くのに10年はかかる。みんな必死にやっている。これができなくちゃ忍者なんて名乗っちゃぁいけないよな。

後ろから振り下ろされる殺気を察知して避ける五段の昇段試験

有名な五段試験初めて生で見られて感動しました…!ちなみに師範代はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?そのうち日本の方はどれくらいですか?

初見良昭: 師範代でいうと世界で600人くらいだな。日本人だと少なくて50人いるくらい。アルゼンチンとかスペインとかロシアとか、本当にいろんな国から来ているよな。中国にも最近支部道場ができたらしい。今海外の人が日本で一番行く場所はこの道場なんだってさ。もっと広げたいとかはないよ、商売じゃないから。

ただ、こういう武道があったというのが今後に残せればいいと思う。だけど日本人は少ないよな。日本は時間とお金がなくて環境が悪い。国境や人種なんかは気にしないから別に悲しいなどの感情はないけど、なんか日本人は可哀相だよな。

外国人の多さに圧巻されましたが、先生はなぜ武神館がここまで世界に支持されているのだと思われますか?

初見良昭: みんな求めていたんだろうね、実践として使える武道というものを。ここに来る人は柔道とか空手とかの有段者が多いんだけど、その先を求めていたんだろう。

高松先生は中国で実践でやっていた先生だったからね。日本の平和な環境で武道をやってた人じゃないから。高松先生から教わった武術は実践の中で生きることを求めていたものだった。

海外では治安の関係などもあって身を守らなければいけない実践が必要な場面が多いだろう?俺もインターポールの会員ってこともあるけど、全世界の警察からも訪れる人が多いよ。やっぱり柔剣道ではアメリカじゃ受け入れられなかった。凶悪犯と渡り合うのにどうしても必要なんだろう。うちに来た人で仕事中に殉職した人はいない。うちの門下の人がマイク・タイソンを逮捕したりしているしね。

みなさん平和に暮らすために必要なことを学びに来ているのですね。

初見良昭: ここに来る人達はみんな優しいよ。誰だって自分の手が届く範囲での安穏を望んでいるんだよ。「世界の平和を求める」とかデカいこと言っても身の回りを守れないようでは間違えた方向に行ってしまうよな。日本は治安も良いし平和だから学ぶ必要性を感じる人が少なくなっちゃってるんだろうな。

忍術は修行するものなんだよな

先生は過去に「世界忍者戦ジライヤ」なども出ていらっしゃいましたよね。あの頃の忍者フィクションはどうだったのでしょうか。

初見良昭: あの頃の忍者関係の作品はたくさんの人がみんな勉強に来てたね。その時のつながりで昨日も藤岡弘が遊びに来たよ。当時は伊賀市にいた奥瀬さんだったかな?彼と原作者の村山知義さん「忍びの者」の忍術指導とかもやったりしてたな。

そうか、忍びの者もですよね!CIAやFBIの指導も興味深いのですが、どのような経緯で?

初見良昭: CIAで2番目に偉いヤツが武神館に習いに来てるよ。FBIも最初は日本の武道なんてやらないって行ってたんだよ。でも俺の武道を見て途中から取り入れることになった。30年前くらいかな。生きるために必要なところではみんな学ぼうとして来てくれるんだよね。

そういった意味ですと日本における忍者の扱い的な部分は先生にはどう写っているんでしょう?

初見良昭: 忍術とは修行するものなんだけどな。観光に使ったりお金儲けとかするのは全く構わないよ、俺には関係ないもん。でも世界が求めているのは武道としての忍術じゃないんだろうかね。

初見良昭にとっての忍者

初見先生が今後人生でやりたいことはありますか?

初見良昭: 酒と女だな(笑)もう今はお酒は抑えてるけどね。焼酎1〜2杯、ブランデー1〜2杯で終わり。女性は嫌いなやつはいないでしょう!この年だからやるやらないは別だけどな(笑)

ぼくも大好きです!最後に初見先生にとって忍者とは何でしょうか。

初見良昭: 人間として心得なければならない勉強そのものだな。全員がやらなければいけないものと強制はしないけど、忍術を求めて修行や稽古をすることを通じて見えてくるものがある。この勉強をしたい人は教えてやるから俺のとこに来るといい。忍者っていうのはノーエンドなんだよ。

忍者=武道は終わりなき追求が必要ということですね。どうもありがとうございました!

編集後記

あの初見先生ということで、今回の取材はこれまでにない緊張に次ぐ緊張でうまく質問できなかった気がします…。ですが初見先生は非常に気さくに話してくださり、時折冗談も交えながら武術の素人の質問にも快く答えてくださいました。

とにかくこれだけの外国の方が何度も何度も千葉の道場に足繁く通い、これだけ集まっている光景に驚愕したというのが所感です。そして「本当に世界に求められている方なんだな」というのを痛いほど実感しました。

忍術と武術を完全に分けて認識していましたが、言葉一つひとつの重みと武神館が人々に求められている実態を見ると、また忍者とは何かという考えに一つまた新しい重要な要素が加わり、非常に刺激になりました。…というのをつべこべ考えずに武道をやってみる、というのがいいのでしょうから、少し習ってみようかな…!

あと武神館の門人の方達はみんな恐そう…と思っていたのですが、多くの方に話しかけていただきみなさん優しくていい人ばかりでした!初見先生の経歴やお考えについて詳しい内容は、下記関連リンクに書いてある本がオススメです!

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