ただ無慈悲に散っていく忍びの厳しさに魅せられた大地丙太郎監督が指揮を執るアニメ「信長の忍び」。
見ればわかるのですが、「信長の忍び」は大変テンポよく心地よい面白さとなっています。
信長の忍び制作に携わった経緯やその裏側についてインタビューした第2弾です!
▼第1弾はこちら
原作を読んだ時、僕が監督をやりたかった
最初に 「信長の忍び」の原作を読まれて感じたことを教えてください!
大地監督: たぶん読んだ人はみんな感じると思うんですけど、あのマンガにはとてつもない才能を感じましたね。最近マンガでは滅多にそういうことは思わないんですけども、他にない際立った面白さを感じます。
今でこそシリアスとギャグが混在していると思うんだけども、読み始めのところはシリアスシーンはあまりないですよね。史実に基づいているにもかかわらず、かならず落としてくる。
ここがとにかく素晴らしくて、どんな真剣なシーンでも絶対にオチがあるんです。読み進めてどんどんシリアスなシーンが深くなっていってもギャグを入れて、しかも面白いというセンスが格別ですよね。
ホントあれは天才のなせる技ですよね!監督もこれまでの作風からしてギャグで貫き通すところがあると思うのですが、共通点がありそうですね。
大地監督: そういう意味では同じ匂いを感じましたね。
僕は忍者も歴史も好きなんですけど詳しくなくて。この作品を通じれば戦国モノ・忍者モノができると思い、絶対アニメ化のときは僕が監督をやりたかったんですよ。Twitterで「アニメ化の際はぜひ大地にやらせて欲しいなぁ」とつぶやいてたら、後で聞いたらたまたまそれを原作者の重野なおき先生が見てくださっていたらしいんです。先生も嬉しいと思ってくださったらしいんですが、立場上リツイートできなかったようで。
で、「神様はじめました」の監督をやっているときに、たまたま出版社が「信長の忍び」と同じ白泉社だったんですね。白泉社の偉い方と会った時に「大地さんあのツイート本気ですか?」って聞かれたんですよ。やるんだったら「神様はじめました」と同じチームでやりたいということになり、トムス・エンタテインメントのプロデューサーの方にそのまま話をして実現に向けて動くことに。トムスは大きい会社なので稟議が下りないと実現できないのですが、プロデューサーの方に頑張っていただいて実現することができました。
その後先生にお会いしてツイッターを見てくださった話とか聞いて。「つぶやくもんですねぇ」なんて話してましたね。
相思相愛だったんですね!にしても、ホントつぶやくもんですね!
重野先生の気持ちを読むこと
信長の忍びをアニメ化するにあたって気をつけていることなどはありますでしょうか?
大地監督: まず1つに絵コンテは全部一人でやることにしています。普通は別の人に出すのですが、信長の忍びはショートというのもあり、全て自分でやりますね。「すごいよ!!マサルさん」のときはいろんな人にコンテを出すのが当たり前のシステムだったのですが、ギャグにいろんな個性の演出家の要素が入るのがよろしくないというのを学んだんです。以降はシナリオもコンテも書かないようなシステムになってきていて、「ギャグマンガ日和」や「毎度!浦安鉄筋家族」とかはマンガのコマをそのまま貼り付けていたこともありました。今回の「信長の忍び」はすべて手書きですが、そんな経緯からも全部1人でやっています。
「信長の忍び」に関してはだいたい原作1話分を放送1回分としているのですが、端折らないと尺に収まらないことが多いんですよ。その会議をスタッフと一緒にやるのですが、やり方はマンガの読み合わせですね。
時折、ある人物の登場シーンでその時は名前のない家臣や武将でも、話の後の方で実は注目される武将がいたりするんですよね。僕が歴史詳しくないので、歴史に詳しいスタッフに「それは遠藤直経ですからカットはダメです」とか「それは名もなき家臣だからカットしちゃって大丈夫でしょう」とか打ち合わせしながら決めていきます。「これはわからない!」ってのがあれば先生に問い合わせする流れですね。
そうやって進めて行かれるんですね!カットで悩む部分はありますでしょうか?
大地監督: セリフが多い回はどこを切るかとなると、ギャグを切るしかないんですよね。ストーリー的に歴史的な説明はどうしても外せないので、ナレーションの時間が多くなってしまいます。そのためギャグが犠牲になっちゃうんですよ。最終的に入れるか入れないかというのをずっと自分で悩んでいたりするので、そこが大変ですね。
重野先生もアニメで1個1個全てを落とす必要はないとのことなのでカットする部分はしちゃうのですが、「先生はこれはやりたかっただろうなー」というギャグ部分は外さないようにしています。先生が歴史書を調べて先生なりの解釈で伝えたい部分だと思ったら、絶対に入れるようにしていますね。
「先生の気持ちを読む」「先生さえ喜んでくれれば」に注力しています。もう「先生がOK出してくれたらウケなくてもいいや」くらいの気持ちでやっていますね(笑)
先生の気持ちを読む…とても気を使いそうですね!
7話の桶狭間の戦いはオススメ!
アニメが始まってから特に7話の桶狭間の戦いは、大変緊迫感もあり面白かったですね。
大地監督: 7話については実は演出も工夫をしていたんですよ。6話くらいまではパターンを作っていまして、オチのあとにME(映像用語でMusic&Effectの略)をつけていたんですね。ドリフでいうとオチのあとの笑い声とか効果音みたいなやつです。7話の桶狭間の回は信長の忍びで初めての合戦シーン。その回はあえてMEを外したんです。
途中からずっと音楽を貼って、その上にカットを載せていくようにしました。そうするとめちゃくちゃ気持ちが乗ってくるんですね。最後までずっと音楽が流れているパターンは今までのアニメでやったことがなかったんですが、「これはイケる!」と新しい演出の発見になりました。原作で最後に今川義元の断末魔があり原作でもカッコいいところなんですが、最後も良い仕上がりになりました。
戦国時代の合戦シーンは初めてだったのですが、かなり良い出来になっていると思います。しかもあの桶狭間を2分半ですから「2分半で桶狭間を描いた男」として歴史に残らないかな、なんて思うくらい気持ち良かったです(笑)
もうずっとクライマックスといった感じで…めちゃめちゃ盛り上がりましたね!1〜6話もだんだん合戦に近づいていく緊迫感が伝わってきて…非常に妙技な演出だなと感じました。
大地監督: 今川屋敷に忍び込むあたりから楽しくなってきますよね。でもその3話の今川邸に忍び込むシーンでは、少し揉めたわけではないのですが、重野先生に頼んで私の忍者のこだわりを貫かせていただいた部分があるんです。
忍者刀で塀を越えるときに足をかけるのは「柄」か「鍔」か
3話は原作でも唯一、忍術がふんだんに描かれた回ですね!
大地監督: 屋敷に侵入するために塀を飛び越えるシーンがあるのですが、原作では千鳥が忍者刀の「柄」に足をかけて飛び越えていたんです。たぶん間違いではないと思うのですが、私は他の忍者作品を見ていて、塀を越えるときは忍者刀の「鍔」に足をかけるとずっと習ってきました。
忍者作品で初めての描写だったので、僕としてはどうしても鍔に足をかけたいんですね。そこだけ先生に「あの柄に足かけるのは何か意図とかありますか?鍔でもいいですかねぇ」と打診して、鍔にさせてもらいました。先生も「そうですか…」とちょっと納得してない感じはありましたが(笑)
最終的にはその後千鳥が空高く飛んでカッコ良く侵入するようにできたので、先生も喜んでくださいました。「あの柄か鍔かで揉めたところですがカッコ良かったですね!」と(笑)ホントよかったです(笑)
おぉ!自分もずっと鍔で育ってきたんでそこのこだわりはすごく共感できます!笑
大地監督: やっぱそうですよね!もう何冊か読み直しましたから(笑)だいたい村山知義さんの説で行きたかったのでうまく収まってよかったです(笑)
あと僕のオリジナルを入れたところがあって、今川邸の屋根裏で千鳥がくしゃみをするシーンですね。原作では確か千鳥がくしゃみしそうになって気づかれてネズミの真似をするのですが、尺が足りなかったのです。もう少し段取りの良い流れにしたく、今川義元にくしゃみをさせてそれに千鳥のくしゃみをかぶせようと思いつきました。今川の噂を誰にさせようかと考えたところ、森可成と秀吉が並んで歩いて「今川ってどんなやつ?」って話すシーンを入れました。重野先生とも「うまくいきましたね」って話をしていたんです。
ですが、現場で秀吉ファンの山口勝平さんに「あの時代は森可成と秀吉が並んで歩くなんて考えられない」って言われちゃったんですよね(笑)すごく友達っぽいセリフにもしちゃっていたので、セリフも直しました。そういうのが戦国モノの難しさですよね。安易にはいじれないんですよ。浅い知識で戦国モノやっちゃいけないので、僕がやるとしたら「ずんだ丸」みたいにしなきゃダメですね(笑)
歴史モノというのは読み解いた人の世界観でできているわけで、村山知義さんの説を1回だけ入れさせていただきましたが、それ以外は重野先生の解釈に忠実にすることが使命だと思っています。
見てもらえれば楽しさがわかるはず
アニメの1話で千鳥が忍びは「生きて生きて生き抜く」って言ってるシーンとか僕は忍びっぽくてすごく好きなんです。
大地監督: あそこいいですよね。あれも重野先生の解釈に忠実に再現しています。ですが僕の思っている忍者とは真逆ですよね。忍びは死んでこそ忍びなので(笑)
でもその何がなんでも生き抜かなければならない使命を持った忍者が、暗号などで仲間に盗んだ情報を託して任務のために無慈悲に死ぬ、っていうところの儚さに惹かれるんですよね。なので生きねばならない使命があってこそ、忍者の死が引き立っているんだと思います。
その意味だと原作ではまだまだ先だと思いますが、信長が伊賀を攻める「天正伊賀の乱」がいずれ信長の忍びでも描かれるでしょう。そのシーンが楽しみで仕方ありませんね。
大地監督: それはですね、秀吉役の山口勝平さんとも話をするとよくその話が出るんです。重野先生がいるところで。先生も絶対言わないんですけど「考えてる」って言うんですよ。もう僕も勝平さんもそこが見たくて見たくて仕方ないんですね。ほんと一番期待しますよね。先生に聞いたりはするんですけど、ここで教えてもらっても困るし、「いいの考えてますよー」とか言われてもなんか嫌だし、先生はいつも無表情でクールに「考えてますから」ってあしらってくれますね(笑)もうそれがちょうどいいんですよ!
ステキな対応…!大地監督が原作で一番好きなシーンはどこでしょうか?
大地監督: それはもう延暦寺のシーンですね!あそこはすごく重いのでまだ1回しか読んでないんですけど、あんなに重いのに爆笑2回してるんです。そこがやっぱり信長の忍びの面白いところ。よくぞこんな風に描けるなと思いますね。ただ自分が演出するとなると相当緊張します。
あそこは僕も大好きです!忍びの本分というかすごくよく描かれてて、切ないのに面白い…。信長の忍びサイコーですね!アニメ「信長の忍び」の視聴者に、特にここは見て欲しいというポイントはありますか?
大地監督: 単純に楽しんでもらえればと思いますね。見ていただくのが一番じゃないかな。今評判もよいので自信持ってお勧めできます。
僕自身も教科書とかで習った歴史とは違う学び方をしている気分で、こんな形で歴史に興味を持てるのは理想なんじゃないかと思うんです。重野先生は学校の先生の免許も持ってらっしゃるので、やはりさすがですね。先生は絶対他の人の小説は読まないんですって。歴史書からちゃんと作っていらっしゃるらしいので本当に大尊敬です。今までの僕の仕事の中で今一番頭がいい仕事をしてるな、って実感しています(笑)頭のいい作品を頭を和らげながら見られる作りになっているので、気負わないで見ていただければと思います。
信長の忍びは5分枠なんですけど、毎週毎週が待ち遠しいんですよね。毎週大河ドラマの真田丸を楽しみにしているような気分がしていて、こんなの僕の中では珍しいです。毎日やって欲しいと思っています。再放送のときは毎日で考えてと言っているんですけど、見ている方はテンポが早いから大変かもしれないですね。1分に大河ドラマの1回放送分くらいが詰まっているじゃないですか。だから1週間に1回の方がちょうどいいかもしれないか(笑)ホント必死ですよ。
忍者を盛り立てたい、まずはくノ一の日イベントを!
今後の忍者というコンテンツに対してどんな期待をされていますか?
大地監督: 東京オリンピックの開会式に忍者が飛び交いまくる光景を見たいですね。日本といえばやっぱり忍者です。世界人気がNARUTOなのは重々承知した上でなのですが、NARUTOだけだと物足りなくて、やっぱり黒装束の闇の忍び達がめっちゃ出てくるようにしたいと願っています。海外の人たちもそれを望んでくれたらいいですね。
そのための活動も何かできることがあればしていきたいと考えてまして、Ninjackさんなんかやりましょうよ!特に来年のくノ一の日にはもうくノ一だけを集めて小さくてもいいからトークショーでもなんでもくノ一イベントをやりたいですね。
うおぉ、くノ一だけを集めたイベントは絶対やらざるをえないですね!大地監督 × Ninjackでぜひやりましょう!読者のみなさん、2017年9月1日か2日あたりはくノ一の日イベントをやりますので空けておいてください!
▼やりました(笑)
大地丙太郎にとっての忍者
大地監督にとって忍者とは何でしょうか。
大地監督: もうロマンですね。先ほどから言っているとおり、あの装束に萌えるし、生き方に萌えるし、忍者の中でも渋くて厳しい忍者がやっぱり好きで、特にくノ一で黒装束だと僕の琴線に触れまくるんですよね。もうとにかく影で暗躍する忍びが大好きです。「赤影参上!」とかは絶対許せないですからね(笑)
赤影許せないのなんとなくわかります(笑) Ninjackの読者の方にひとことお願いいたします!
大地監督: 忍者好きのみなさん、影で繋がりましょう。そして東京オリンピック目指しましょう!あと「くのいちせぶん」読んでください!
ありがとうございました!
編集後記
大地監督の忍者愛はかなりのものでした!しかもくノ一が特に好きなところなど、とてもNinjack編集忍と趣向が一緒すぎて、あと何時間でも話していたいくらいでした。
そして信長の忍びを通じて、素晴らしい忍者作品を世に提供してくれている大地監督。忍者刀の柄か鍔か問題などは普通の人にとってはどうでもいいかもしれませんが、忍者を本当に好きでないと絶対にこだわれないところです。大地監督が信長の忍びの監督で本当によかったな、と思っています。
第2クールに入り、さらに盛り上げを見せている「信長の忍び」のアニメ放送はぜひお見逃しなく!
そしてくノ一イベントは必ず実現させますので、ぜひみなさま楽しみにしていてください。追って沙汰いたす!
世界各地で活躍する諸将の皆様へ、Ninjack.jpを通じて各地の忍者情報を密告する編集忍者。忍者に関することであれば何でも取材に馳せ参じ、すべての忍者をJackすべく忍んでいる。