一家に一忍は備えよう!「諸家中に伊賀甲賀の者これあるべきの事」|軍法侍用集vol.1

忍術書とかを読んでいると、たまに侍のことを言っているのか、忍者のことを言っているのかわからなくなるときがありますよね。

え、そんなことないですか?

昭和より前に「忍者」というワードは存在していなかったとはよく言われますが、おそらく主君に使える武士や野武士たち、たまに普通の一般人までもがあくまで役割として忍び働きを行なっていたからだと思います。

伊賀者、甲賀者は特にその忍び働きに特化して秀でていた集団でありますが、あくまで当時は地侍のような扱いでした。

侍の中から特に情報収集スキルに長けた人がいれば忍びの任に就くわけです。

要するに武士と忍者の境界線は結構あいまいということなのですが、そのことからも忍術に関する記述というのは武士達がたしなむ兵法書に結構多く残っているんですよね。

忍術書というのは侍の兵法の中で調略や情報収集に関する、いわゆる間諜のコツを抜粋して編成したものなのです。

なのでたまに「武士が忍びの者をどういう風に使ったらいいか」なんて記述が入ってくるのです。

というわけで忍者が書いた忍術書だけでなく、兵法書の記載などからも忍術や忍者の心得にどんなものがあったかを紹介していきたいと思います!

戦国武士の心得をまとめた「軍法侍用集」

室町時代末期の軍学者・小笠原昨雲がまとめた戦国武士の心得集である「軍法侍用集」。

源頼朝時代から伝わる550巻もの兵法のうち、彼がベストセレクトして12巻にまとめた武士のハウツー本の集大成のようなものです。

その中には武士としての普段の心得や陣の張り形、気にすべき日取りや方角までも事細かに書いてあります。

これ、戦国時代の武士たちのありありとした姿が見えてくるリアリティ感がたまらなくおもしろいですよ!

この本の作者である小笠原昨雲が「自分の備忘のためなんで」とその名前を「私用集」にして出版していたのですが、この内容が素晴らしいとして徳川家康にまでこの本の存在が伝わったのだそう。

そして読んだ家康から「これは個人のためだなんてもったいない。武士みんなに役立つから「侍のための本」ってことにしようぜ」「侍用集」にするように命じられたのだとか。

そんだけすごい内容なんですね!

そしてなんと、この本の中には忍びの心得を詠んだ義盛百首をはじめとして、「窃盗(しのび)」の記述もあるんです。

全12巻のうち3巻が忍びの巻ですから、戦国時代に忍び働きがどれだけ重要だったかがわかるでしょう。

『軍法侍用集』

第1巻 武勇問答の次第
第2巻 備えの勝負の巻(上)
第3巻 備えの勝負の巻(中)
第4巻 備えの勝負の巻(下)
第5巻 道具軍礼の巻
第6巻 窃盗(しのび)の巻(上)
第7巻 窃盗(しのび)の巻(中)
第8巻 窃盗(しのび)の巻(下)

第9巻 日取り方角文段の巻(上)
第10巻 日取り方角文段の巻(中)
第11巻 日取り方角文段の巻(下)
第12巻 気の巻

第6巻〜8巻までの忍びの記述を、若干の見解も加えながら解説していきたいと思います!

大名の元に忍者は必要なのか?

武士たるもの、ただ義と忠を信じて戦うのみ…忍者などいらぬわ!

というサムライスピリット溢れる方もいるかもしれませんが、そんなことではあきまへん。

「将」というのは民を幸せにしてこその存在であり、そのために戦をしているのであって勝たなければ意味がないんです

戦で負ければ自国の村々の民は、敵国によって大変な目にあってしまいますもんね。

大名は、どれほどの戦上手であっても、敵やその近辺の地形を知らなかったらどんな策も通用しませんし、いつ敵が襲って来るかもわからないので、見張りなどにはやはり偵察を得意とする人も必要になってきます。

そのことから、侍用集の窃盗の巻の第一には「大名の下には窃盗(しのび)の者」がなくてはならないと記載されているんです。

第一、諸家中に伊賀甲賀の者あるべきの事

一、 大名の下には、窃盗の者なくしては、かなはざる儀なり。大将いかほど軍の上手なりとも、敵と足湯とをしらずば、いかでか謀などもなるべきぞや。其上番所目付用心のためには、しのびを心がけたる人然るべし。

from 戦国武士の心得(ぺりかん社)

忍び…いわゆる間諜は、あの孫子でも「兵法の中で一番重要だよ」って言うくらいの超重要な存在なんですよね。

忍びのアウトソースなら伊賀甲賀衆におまかせ!

武士の兵法書にも「忍びが大事だよー」って教えてくれているわけですが、侍用集では更に、忍びが必要なときのオススメアウトソース先まで教えてくれています。

戦国武士のためのベスト選書がイチオシするしのびのプロフェッショナルとは…?

そうです、お察しの通り、かのハイブランド忍者たちが集まる集団「伊賀甲賀衆」でございます。

侍用集では「伊賀と甲賀には昔から忍びの術が得意な人々がいて、今もその子孫に技が伝授されているんじゃぞ」と紹介しております。

・・・されば伊賀甲賀に、むかしより此道の上手あつて、其子孫に伝はり今に之あるといふ。然る間、国所の名を取りて、伊賀甲賀集とて諸家中にあり。

from 戦国武士の心得*「軍法侍用集」の研究(ぺりかん社)

 
これを読んだ当時の武士達はどう思ったんでしょうか。

今でこそ伊賀や甲賀は知らない人も多いですが、戦国末期・江戸時代初期はすでに伊賀者甲賀者は人気だったのでしょうか?

徳川家康に取り立てられて江戸まで来ていたから、結構武士達の間でも有名だったかもしれません。

だとしたら

いや、伊賀者っしょ?そんなん知ってるし!あえて言われるまでもないわー

という感じだったでしょうか。

でももしかしたらあんまり知られていなくて

なになに伊賀甲賀衆?ちょっとなにそれそんなスゴイ奴らがいるの?今度発注してみようかなぁ

とか頭の片隅に残ってて、いざというときに伊賀と甲賀で相見積もりをかけたりしたのでしょうか?

だとしたら伊賀と甲賀ってどっちの方が安くていい仕事したんでしょうか。

この本が出たのがもう大坂の陣も終わった後ですからもう忍者の仕事はなかったかもしれませんが、侍のみなさんの反応が気になりますね…!

まとめると「大名なら忍者の1人や2人ちゃんと雇っとけよ」って内容だったわけですが、やっぱり大事な事を為すためには、伊賀者や甲賀者などの忍者を近くに置いておいた方が良さそうなことがわかりましたね。

この記事を読んだ読者の方ならきっとその重要さに気づいたでしょう。

そうと決まれば、4月くらいから心機一転、一家に一忍、忍者を雇いましょう!

事を為すために!

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