奇想天外で手に汗握る忍者バトル小説を描く山田風太郎の忍法帖シリーズをご存知でしょうか?
最近の若い忍者だと「バジリスク」って言えばニン!と来る方も多いかもしれません。
バジリスクの原作者で、能力バトル系のストーリーの先駆者だった山田風太郎氏。
昭和時代に大人気だった彼の忍法帖シリーズの中で、最も人気で何度か映像化された至高の作品があります。
その名も「魔界転生」なる中二感満載のタイトル。 忍者が異様な忍術を駆使して忍法合戦を繰り広げるテイストの他の忍法帖シリーズと違って、こちらは柳生十兵衛を主人公とした剣法モノです。
死んだはずの天草四郎や荒木又右衛門、宝蔵院胤舜などの名高い剣豪や達人が蘇り、悪人の手下となって柳生十兵衛と死闘を繰り広げるという、なんともぶっとんだストーリーなのです。
異世界に集められた全世界の過去の偉人達が一同に介して闘う大人気漫画「ドリフターズ」なども、この魔界転生に影響されているのだとか。
伝説の剣豪たちが時代を超えて入り乱れるバトルが面白すぎて最高なんです!Ninjack編集忍も高校生のときにハマりまくって何度も読み返しました。
忍術「魔界転生」とは?
魔界転生の作品の中で重要ポイントとなってくるのが、死んだはずの屈強な剣士達が生き返るという奇怪な術。 これが日本の忍術と、西洋の黒魔術を合わせた恐るべき忍法「魔界転生」といいます。
特定の女性に術をかけて「忍体」とし、この女性と交わった男をそっくりそのまま生まれ変わらせるというもの。 生まれ変わった男は、生前をはるかに上回る戦力と恐るべき残虐性を持ち、魔界転生を使った術者の命にのみ従うようになります。 ただし、男の側が死の間際でも交合できるような比類なき体力の持ち主であること、自らの人生を後悔し生まれ変わりたいと熱望していることが条件なのです。 しかも「忍体」を作る際には術者の指が必要なため、合計十人までしか転生できないというリミッター付のチートな術となっております。
本作の中でこの魔界転生を使い、国家の転覆を謀った完全なる悪者。 それが森宗意軒(もりそういけん)でした。
森宗意軒って何者?
森宗意軒は、魔界転生ではそれはもう救いようのない悪役として描かれていますが、実際には江戸時代に起こった「天草の乱」で活躍した実在の人物です。
キリシタン大名であった小西行長に仕え、朝鮮出兵の際には行長の荷物を運ぶ船宰領(船頭)を担っていました。 その途中で難破し南蛮船に助けられて南蛮へ行ったり、その後もオランダや中国に渡り、中国では火術、外科治療の法、火攻めの方法などを伝授したという、なんか凄い人だったんです。
日本へ戻ってからというもの、大坂の陣では真田信繁の軍について戦うも落城し、後に肥後国天草島へ落ちのびてそこに住みついたと言われています。 島原・天草の乱で戦死しましたが、一揆勢における惣奉行・目付・兵糧奉行として活躍した人物であり、実質は一揆勢の中では天草四郎に次ぐNo.2の存在だったハンパない人なのです。
このような突飛な経歴の持ち主であることから目をつけられているのか、山田風太郎作品の「彦左衛門忍法盥」という短編にも、陰謀者として登場しています。江戸時代に国家転覆を企む際に忍術が使われるストーリーが流行ったことから、忍者や忍術のおどろおどろしいイメージが形成されていったわけですが、この森宗意軒もその流れを汲む忍者として扱ってよいでしょう。
そんな森宗意軒が祀られる神社が!
フィクションの世界では極悪忍者として描かれる森宗意軒さん。そんな隠れた悪忍の地元である熊本県は天草の地では神様として祀られていると聞き、Jackしに行ってきました!
海が見える小さな山の上にちょこんと佇む社は、「森宗意軒神社」と呼ばれる神社です。悪い忍者というのになかなか立派に祀られています。
この神社が建っている小さな山は、昔「柳城」というお城があったのだそう。宗意軒は、地元では「もりすけさん」という相性で親しまれているみたいですね。なんか親しみがこもった優しそうな爺さんって感じがして、地元に愛されている感!実はそんなに悪い忍者というわけではないのでしょうか?
ちなみにこの神社の周りで蟹を見つけました。山の中なのに蟹がいる、というなんとも神秘的な場所でした。
ひょっとして魔界転生した蟹かな?笑
森宗意軒神社(通称 もりすけさん)
この祠は、寛永一四年(一六三七年)の天草島原の乱において天草四郎の率いる一揆の参謀者の一人で医学者でもあった森そう意見を祀る社である。
当所では、由井正雪(軍学者)に妖術と軍略を授けたとも伝えられている。
宗意軒はこの小柳の素晴らしい眺望をとても気に入り、維和島よりこの地に住み着いたとされている。
乱後、地区住民が宗意軒を偲び、当社を建てて供養を行なっている。平成二十一年三月 上天草市教育委員会
ここに書かれている由井正雪は徳川家光の時代に幕府転覆を計画した軍学者で、森宗意軒から妖術を教わったと伝えられています。
魔界転生の作品でも、そのほかの山田風太郎作品でも、よく由井正雪とは陰謀コンビとして悪巧みをするのですが…森宗意軒も由井正雪も幕府に楯突いたことや、妖術などの類がフォーカスされてこのような描かれ方をしているように感じますが、森宗意軒に関しては、義理固くて気のいいおじさんだったんじゃないかと思いました。
だってこの神社から見える海の景色は素晴らしく綺麗で、心が洗われるような景観だったんです。綺麗な景色を気に入って移り住むくらいですから、かなり純粋な人だったんじゃないかなぁ、って思えてしまうんですよね。
きっと本当に天草の人たちに対するキリシタン弾圧を憂い、一揆勢の味方となって圧政から人々を解放するために戦っただけなんだと思えてしかたありません。本当の意味での忍者ではないかもしれませんが、妖術を学んで忍術らしきものをマスターした森宗意軒の爺さんがこの地でまったり暮らしていて、人々を救うために指導者として立ち上がったと思うと、何かすごく感慨深いものがありました。
もし天草に立ち寄ることがありましたら、ぜひ森宗意軒神社に行ってみてくださいね!
世界各地で活躍する諸将の皆様へ、Ninjack.jpを通じて各地の忍者情報を密告する編集忍者。忍者に関することであれば何でも取材に馳せ参じ、すべての忍者をJackすべく忍んでいる。