本記事は、2017年7月9日(土)開催の忍者食イベント『「ごはんでござる。」~忍者の食事』、2017年7月16日(土)開催の忍者・忍術学講座①「忍者食の再現と食材の働き」、忍者食イベント『「ごはんでござる。」~忍者食を科学する』を取材、構成した内容となります。
忍者が食べていた「忍者食」を解明する!
敵国の参謀たちが、僕たちの国を攻めるための作戦会議を3日後に行うという情報を掴みました。
その情報を探るために、作戦会議される部屋の天井裏に3日間張り込む任務を言い渡されたらどうしますか?
忍者の気持ちになって想像してみてください。
3日間も天井の裏か〜・・・ご飯どうしよう。喉乾いたらどうしよう。トイレどうしよう。咳とかくしゃみ出てバレちゃったらどうしよう。眠くなったらどうしよう。ってか暗いところでずっと1人とか病みそう。。暗いところで一人でいるだけでストレス溜まりそうだし、もし敵にみつかったりでもしたら・・・
そうですよね。なかなかいろんな課題がありそうですよね。
忍者が任務へと向かうとき、一体何を食べていたのか?
今回の日本科学未来館の企画展「The NINJA -忍者ってナンジャ!?-」では、忍者が食していたとされる忍者食に関しての講座もやっておりまして、今回はそんな忍者食のテーマでお話しされた忍者センセーたちの講義やイベントの模様をレポートいたします!
史料に見る兵糧丸のスゴさ
まずはおなじみ山田先生のお勉強TIMEです。
忍術書や兵法書から忍者が食べていたとされる兵糧丸を中心に、その内容をご紹介いただきました。
基本的には普通の食事
忍者の平常時の食べ物というのは、今のところ記録には特に残っていません。
みなさんが戦国時代の忍者だったとして、わざわざ「今日はご飯と味噌汁を食べました」って記録残さないですよね?特段なにかすごいイベントでも起こらない限り、記録には残らないもんです。
そのため、忍者は普段農民や町人たちと同じものを食べていたと考えられています。粟(あわ)や稗(ひえ)をはじめとした穀物や、雉(きじ)の肉、伊賀や甲賀の山々でとれる山菜などです。当時は栄養価もそれほど高くなかったので、平均身長も150cm程度だったようです。
日本最高形式の「食」=兵糧丸
今回はこの兵糧丸を中心に様々な史料からその記述内容をご紹介いただきました。
大日本帝国時代、陸軍内において兵糧(食べ物)を管理する部署があったのですが、その部署が長年研究した「日本兵食史」には、兵糧丸に関して以下のとおり記述がされているようです。
・飢餓から救われるし、精神状態がよくなり頭が冴えて、仕事がうまくいく
日本兵食史
・日本人が今まで開発した食べ物の中で、一番最高の形式といえるのがこの兵糧丸だ
これでもかっ!! ってくらいのハードルの上げ方ですね。気になる気になる兵糧丸、いったいどれだけスゴイのでしょうか。
史料に見る兵糧丸レシピ
忍術書などの古文書からそのレシピを紐解きつつ、山田先生がワンポイントアドバイスをしてくださいました。
なんと古文書の中にもこんなにもの種類の兵糧丸が存在するみたいですよ。
「老談集」の兵狼丸
1日に5〜7粒用いて、一回噛み砕いてから馬にあげるのもよし。義経兵糧丸
日本兵食史で紹介される兵糧丸。「虎肉」など中国でしか手に入らないレシピが多く載っている。鬼一法眼兵糧丸
伝説の日本兵法書に出てくる兵糧丸。1粒食べれば3日は疲れないが、2日目以降はお腹が空くので1日1粒ずつ食べるとよい。用間加条伝目口義
尾張藩に伝わる忍術書の兵糧丸。忍びいるときには「強飯」(蒸してから干した飯)を2〜3日分持って行く。「甲陽軍鑑」の兵糧丸
いわずとしれた武田信玄の兵法書に書かれる兵糧丸。何種類か紹介されている。「万川集海」の水渇丸
梅干しを使ったもの。喉が渇いたときに食べるといい。「万川集海」の飢渇丸
3粒ほど食べれば心身ともに疲労しない。川上先生が甲賀流で伝承している兵糧丸
生きた鯉の血を混ぜるらしい。
兵糧丸の詳細レシピについてはのちほどの久松先生の講義でお勉強しましょう!
食べ物を使った忍術
忍術書には食物を使った忍術なるものがいくつか記載されているそうです。
全部確かめているわけではないようですので、もし気になる人は試してみてくださいね!(責任は持てませんけど…!)
声を出す術
氷砂糖と黒豆を煮て飲むと、声がガラガラでも翌日にはよく声が出るらしい船に酔わないの術
ササゲを粉にして梅干しと練り合わせたものを食べると船に酔わないらしい長距離歩いても足が痛くならない術
足の裏にごま油を塗る。または梅干しを食べる。飢えを凌ぐ術
抹茶を持って行ってそのまま食う。毒の酒にあたって死にそうなとき助かる術
枝豆を粉にして水に溶かして飲めばいい。口臭を消し去る術
胡麻を食べるか、酢を1口飲む!お腹空いた時の最後の手段の術
上の歯と下の歯を舐めて唾を出し、1日360回唾を飲み込めばいい!
兵糧丸の栄養学的なアプローチ
三重大学の忍者研究は本気です。忍術書から読み解かれた忍者の真実を、理系の学者の方まで手伝って科学的・化学的にも証明する徹底力。
山田先生が読み解いた兵糧丸を、三重大学の特任教授・久松眞先生が栄養学の観点から斬り崩します。
栄養学的にもスゴイ効果の忍者食
忍者は大変リスキーな任務を追い、失敗の許されないとてつもないプレッシャーとストレスの中で仕事をこなします。
兵糧丸や水渇丸、飢渇丸は、そんな忍者の強い味方となってくれる効果・効能がたくさん詰まっているようです。
これらの携帯食に使う素材の中でなんとも驚かされるのはその生薬の多さだと語る久松先生。
生薬(しょうやく)とは、いうなれば天然の薬。素材となる植物や動物が元から持っている天然の効能を、ふんだんに取り入れたのが忍者の携帯食なのです。
上記の写真でもそのほとんどが生薬であり、様々な効果があったとされています。
兵糧丸の効能を1つとっても、以下の効能が期待できるのです!
・滋養強壮
・疲労回復
・鎮静・リラックス効果
・救急医薬
・エネルギー供給
・健康維持
高い効能だけでなく、1粒30gだとしたら120kcalの高カロリーな兵糧丸。
1粒でそば1杯分のカロリーを摂取できる優れものになります。
勝手に解釈すると「養命酒」「リポビタンD」「抗不安薬」「ルル」「カロリーメイト」「サプリメント」が1つになった食べ物みたいなもんですから、やっぱりすごいですよね兵糧丸って!
こんな万能薬、いまあったら毎日でも食べておきたい代物です。忍者さん、けっこう贅沢なモン作ってはったんですね!
兵糧丸は「弁当」?それとも「お薬」?
これだけ栄養価も高く、さまざまな効能をもたらしてくれる兵糧丸。果たして忍者はこれを携帯食として持っていったとしても
・お弁当の代わりに食べたのか?
・ある種の医薬品として持って行ったのか?
どちらなのでしょうか。久松先生が人間がなぜ食べるのか?という根底から紐解いてくださいました。
基本的に人間の体を構成するのはタンパク質や脂質がほとんどであり、糖質は1%程度しかありません。
ですが人が日中活動をするためには「糖質をたくさんとってエネルギーに変えないとならない」のです。この活動エネルギーがよく言うカロリーってやつですね。
忍者は言い伝えとして1日40里(=約160km)を走ったと言われています。この160kmを走るのに必要なカロリーは、計算すると約12,000kcalだとのこと。これだけ走ったら2kgは体重が減ってしまう計算になるようです。
このカロリー埋めるために食べなきゃいけない兵糧丸は100粒!そんなに食べないし、持っていけないですし、飽きますよね。
そんなことからの久松先生の見解は、どちらかというと忍者はお弁当として腹が減ったら食べるために兵糧丸を持って行ったのではなく、その生薬の効能からも「疲れを癒したり、ストレスを和らげたりする医薬品的用途で用いたのではないか」というものでした。
特に砂糖をふんだんに使うレシピとなっていますが、エネルギー補給に糖分を多く使うこの携帯食は、今で言うと点滴と同じような役割にもなりうるとのこと。
これらのレシピを全部集めると相当なお金もかかることから、当時はかなり貴重なもので、入手に関しては
・任務を受けた時の契約金をもらったときに買ったのではないか
・伊賀忍者は多くが荘園の武士の末裔だから金を結構持ってたのではないか
というちょっと興味深い見解なんかもお聞きすることができました!
忍者が本当にいざという時に食べたのが、兵糧丸であり、飢渇丸であり、水渇丸だったのかもしれませんね。
忍者のごはんを食べてみよう!
そしてお待ちかねの忍者食のご馳走タイムです!
久松先生監修の元、当時の忍者が食べていたのではないかと思われる食を日本科学未来館のレストランシェフが再現。
特に鹿南蛮は大変美味でございました!そして先生方もおいしそうに食べていらっしゃいます。
久松先生にプチNin-terview!
最後に久松先生にも少しお時間がいただけましたので、プチNin-terviewさせていただきました!
本日は貴重なお話ありがとうございました!先生が忍者食について研究されようと思った経緯を教えてください。
久松先生: もともとは三重大学が本格的に忍者研究をはじめる前から、伊賀市での産学連携構想の流れの中で「三重大学伊賀研究拠点」という伊賀市と連携した研究施設で、栄養学の研究やセミナーを開いたりして活動しておりました。川上先生が三重大学の特任教授に任命されて、三重大学での忍者研究が本格的になると伊賀研究拠点も「忍者の知恵を科学的側面からも明らかにして現代の生活に活かす研究プロジェクト」に参画することになり、忍者をサイエンスから研究していくことになりました。
三重大学伊賀研究拠点…!すみません、その存在は知りませんでした。実際にサイエンスの面から忍者を見てみていかがでしたでしょうか?
久松先生: 最初はおっかなびっくりだったのですが、山田先生が古文書を丁寧に解読してくださるので、連携すればなんとかうまくできそうだということがわかり研究に取り掛かりました。
が、意外とこの研究はレベルが高かったですね。こんな生薬はどこで手に入れるのか…となかなかに骨が折れました。ご縁もありなんとか手に入れたわけですが、病人でもないのになぜ忍者はここまで生薬を使ったのかなど疑問も湧いてきます。
この解決の糸口になるのは、忍者の本来の役割「情報収集(スパイ)」の目線で考えていくことでした。漫画やアニメでは殺し屋的な側面で描かれますが、情報収集が主な仕事であるという目線から研究をしていくと、この兵糧丸についてもなぜ使う必要があったのかがだんだんと見えてきます。忍者は極度のプレッシャーにあった者たちで、その緩和のために忍者食が必要不可欠だったのだと確信に至りました。
忍者の任務は大変ストレスフルなんですね…
久松先生: 人間は極度の緊張状態にあると血管や筋肉が収縮して動けなくなるんですよ。敵に見つかったりして逃げなきゃいけないときにすぐ動けるようにするには、いかにリラックスして任務をこなせるかが重要になってきます。九字を切ってリラックス効果があることは三重大学の脳波の研究からも証明されましたが、実際はあれでは効果は長続きしません。いざというときに栄養もエネルギーも全て瞬時に全筋肉に送り、機敏な動きができるようにする必要がありますし、そうして動いたあとはエネルギーが欠乏します。そんなときに糖分たっぷりの兵糧丸を口にすれば、緊張がほぐれ、疲れもとれる。そんな用途で忍者は兵糧丸を使っていたのだと考えられます。
兵糧丸には、ある種ドーピング的な要素もあったのでしょうか?
久松先生: 昔から「麻」は神社でも使われていましたし、薬物的な使い方を知っていて織り交ぜた忍者もいるとは思います。兵糧丸をそのように使ったことも考えられるのではないでしょうか。
ほほう…山田先生の研究から「日本人至上最高の形式の食物」と陸軍が書き記していますが、先生から見てもそう思われますか?
久松先生: 思いますね!そんな認識で兵糧丸を捉えています。忍者が使ったこの兵糧丸を基礎にして、今の現代にあった新しい兵糧丸を作ったらおもしろいでしょうね。
それはすごく期待しています!本日はありがとうございました!
やはり日本人至上最高の携帯食「兵糧丸」。
疲れた時や緊張のプレゼンの前とかに、フリスクをサッと口に入れる感じの「NEO-兵糧丸」が開発されるといいですね!
忍者と科学が融合することによって次々と解明される忍者の知恵。その成果が詰まった忍者展にぜひ足を運んでみてください!
世界各地で活躍する諸将の皆様へ、Ninjack.jpを通じて各地の忍者情報を密告する編集忍者。忍者に関することであれば何でも取材に馳せ参じ、すべての忍者をJackすべく忍んでいる。