時計を持たない忍びは、敵地の真っ只中で時刻をどう計ったのでしょうか。
その答えのひとつが、足元にうずくまる猫の瞳でした。
出典#
延宝四年(一六七六)、伊賀の藤林伝五郎保道が編んだ忍術書『万川集海』の天時篇第一に「知時刻二ヶ條(時刻を知る二箇条)」という忍術があります。時計の乏しい時代にあって、忍びが時刻を見極めるための二つの方法を伝授した一節で、その1つに掲げられているのが「猫眼にて時を知る法」、すなわち猫の目時計です。
原理#
猫の瞳孔は、光量に応じて開閉します。日が高く昇るほど細く絞られ、薄暗い朝夕には大きく開きます。これを逆に読めば、瞳孔の形から日輪の高さ、ひいては時刻が割り出せるという仕組みです。
日中の光量変化を一日の時刻に対応させたものが、下表になります。
時刻と瞳孔の対応#
| 時刻(江戸時間) | 十二支 | 現代時刻 | 瞳孔の形 |
| 明け六ツ | 卯の刻 | 朝6時頃 | 円形(丸い) |
| 五ツ | 辰の刻 | 朝8時頃 | 卵形 |
| 四ツ | 巳の刻 | 朝10時頃 | 柿の核 |
| 九ツ | 午の刻 | 正午 | 針の如し(細い線) |
| 八ツ | 未の刻 | 午後2時頃 | 柿の核 |
| 七ツ | 申の刻 | 午後4時頃 | 卵形 |
| 暮れ六ツ | 酉の刻 | 夕方6時頃 | 円形(丸い) |
正午を境に瞳孔が「丸 → 卵 → 柿の核 → 針 → 柿の核 → 卵 → 丸」と対称に変化します。これを覚えておけば、空模様で日輪の位置がつかめない時にも、近くの猫一匹で時刻の見当がつきました。
昔の人はこれを歌にして覚えていたのです。
忍術としての意義#
忍びの任務には、時刻が命を分ける場面が数多くあります。
仲間と落ち合う刻限、見廻りの番替りの隙、火の手を上げる合図——
いずれも正確に時刻を測る時計が存在しない時代では、
音を立てない
道具を要さない
そこらにいる猫で事足りる
という三拍子が揃った猫の目時計は、まことに重宝な実用術でした。
曇天で太陽の位置が読めない時や、屋内に潜んで外が見えない時にも応用が利きます。
現代に活かす#
今でこそ腕に時計を巻き、懐にスマートフォンを忍ばせる時代ですが、停電や山中の遭難で時計が役に立たない場面はあります。
そうした時、傍らに一匹の猫さえいれば、忍びの智恵が現代にも蘇るのです。
次に猫と目が合った時には、その瞳の形をしばし眺めてみてはいかがでしょうか。


