『忍者に結婚は難しい』は、忍者設定を現代の夫婦関係に移植した、とても読みやすいエンタメ小説です。伊賀と甲賀の末裔が、互いの正体を知らないまま結婚していた。これだけで忍者好きには十分おいしい設定ですが、本作はそこに夫婦のすれ違い、仕事、政治的事件、組織のしがらみを重ねていきます。
忍者研究の文脈で見ると、本作の面白さは「忍びの機能」を現代社会に置き換えているところです。伊賀流忍者博物館では、忍術を密偵術だけでなく、薬学、火術、心理、天文学などを含む総合的な技術として説明しています。本作でも、薬剤師や郵便ネットワークといった現代的職能が、忍者的な知識や情報網へ自然に翻訳されています。
もちろん、史実の伊賀者・甲賀者をそのまま描く小説ではありません。むしろ、伊賀と甲賀という強いフィクション上の記号を、令和の結婚生活にぶつける作品です。夫婦の会話、家事分担、価値観のズレが、そのまま忍者同士の駆け引きに見えてくるのがうまいところです。
国際忍者学会の会誌『忍者研究』や三重大学国際忍者研究センターの発信では、忍者像が史実、地域文化、近現代の創作のあいだで変化してきたことが示されています。『忍者に結婚は難しい』は、その近現代的な忍者像の楽しい応用例です。忍者を過去の存在ではなく、現代の家庭や職場に紛れ込ませることで、忍びの“隠れている”性質をラブコメとして生かしています。
Ninjack的には、忍者小説に重厚さよりもテンポのよさを求める人におすすめです。伊賀と甲賀、夫婦、任務、秘密、ラブコメ。この組み合わせが気になったらかなり相性がよいはず。ドラマ版を見た人も、原作小説では設定や会話の軽妙さを改めて楽しめます。










